産業

竹産業のサプライチェーンから考える放置竹林問題

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竹を扱う事業には、古くは竹稈(木の幹に相当する部分)の燃料含む工業的な利用やタケノコの食料品としての利用が行われてきました。現代では、末端の産業としては過去から思いもつかなかったであろう化粧品あるいは化学品としての竹の利用が既に実用化段階に入っていますが、それは少数派で、やはり竹稈の工業的利用やタケノコの食品的利用が主であるということは2021年現在でも変わりません。

しかし、そのサプライチェーン全体を観察してみると、過去から大きく様相が変わったということが観察できます。というのも、竹の生活における存在感が過去と現在では全く異なるからです。そしてその結果放置された竹林が増えた、ということもよく分かります。順に紐解いていきましょう。

まず、竹というのは現代におけるプラスチックの役割も果たしましたし、あるいは鉄パイプのような位置づけでもあり、また燃料でもあり、更に現代と同じように建材あるいはその他の材料としても使われていました。つまり、かなり多様性がある使われ方をしていたわけです。

そのためサプライチェーンの上流である竹の獲得についても、現在よりもより体系だった体制が存在していました。職人である「伐り子」が、竹を選定の上伐竹し、サプライチェーンの下流である竹を扱う業者に卸すのが基本です。伐り子の仕事は竹を切ることだけではなく、竹林の管理までもがその職務範囲であった場合が多かったでしょう。つまり伐るだけではなく、竹林の整備も求められる技能と職務の一つであったということです。また、竹を伐るのが伐り子でない場合(例えば、竹炭用の竹など)なら、里山から農家あるいはそれに準ずる人が切ることもあったでしょう。もしかすると、竹細工のように家内工業的性質が強い製品の場合は、末端の販売業者が管理から調達、加工、販売までこなすケースも多くあったかもしれません。

しかし、それは竹産業が産業として成立していた場合の話です。現在では上記のような「伐り子」→「卸」→「加工業者」→「販売業者」→「消費者」というようなサプライチェーンはほぼ全く成立していません。なぜなら、最終の「消費者」のところに需要が無くなったためです。材としてはプラスチック、燃料としては石油系燃料など、竹よりも安価に入手できるものが多数発明されました。またそもそも竹製品を消費者が求める場合も、海外から加工した商品を輸入する場合が現在では多く見られます。

それどころか、竹を使う場面でさえも国外からの輸入の方がコスト優位なため、国内の材料を用いない場合もあります。そうすると、サプライチェーンでの「伐り子」の存在感が全くなくなります。事実、同種の問題はたびたび指摘されており、例えば「竹の伐り子技術伝承は待ったなし」として、竹産業情報交換会は2017年9月に日本特用林産振興会「特産情報」でこの「伐り子」問題に言及しています。

問題はこの伐り子不足に留まりません。伐り子がいなくなると、事実上竹林を管理する存在がいなくなるのです。もちろん、竹林のほとんどは民有林ですので、その所持者に管理する義務は法的には発生します。しかしその法的な管理というのは野放図に生えた竹林を管理しろというのは全く次元が違う話です。道路に木がはみ出していても市や県がなかなか指摘できないのに、まして片田舎で竹林が「放置竹林」になっていることを指摘できるでしょうか。おそらく現実的ではないでしょう。そうすると、竹林はどんどん繁茂していきその面積を増やすと同時に、竹林自体も所謂「放置竹林」となり鬱蒼としたやぶ蚊とイノシシの温床になり、そのうち周囲に獣害などの実害が発生します。景観的にもよろしくありません。

そしてその放置竹林問題を認識した人が「じゃあ竹林を整備しましょう!」といっても、当然うまくいきません。なぜなら、経済活動の輪の中に入れないからです。当然ですよね。末端の「消費者」のニーズがないのにその最上流の「伐り子」の活動だけが成立するわけがありません。なので、ボランティアや補助金を投入した整備、ということになるわけです。

つまり、放置竹林問題というのは極めて根が深い問題で、一朝一夕に竹林をきれいにしたところでその根源的解決には全くならないということです。例えば解決しようとすると、竹定商店さんが実施されている「MICHIKU」という竹コミュニティ事業のようなサプライチェーンの全てを一貫して解決するような取り組みか、あるいは国内で竹を大量に消費するコンテンツを思いつく(例えば、燃料としての利用など)+国外よりも安価に竹を伐採・運搬する手法の完成が求められるわけです。この場合、消費するコンテンツだけですと国外から竹を賄えばいいじゃない、という話になるので、安価に伐採・運搬する仕組みとセットで考えなくてはなりません。もっとも、そのコンテンツが高付加価値的で上流の伐り子的業務にかなりの費用をかけてもペイするのならこの限りではありませんが、少なくとも現状の竹販売価格の「4~10円/kg」のような価格帯ではそれもしんどいでしょう。

【参考文献】

・MICHIKU(URL

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