日本式の庭園に竹が植えられていることはよく見かけます。例えば、ホテルの外観などではよく見られるでしょう。
なぜ人々は竹を植えるのでしょうか。竹という生き物は野放図に広がったり、また大量の葉を落としたり管理が厄介なことでも知られています。それでも植えたくなる魅力というものを、上田弘一郎・吉川勝好が「竹庭と竹・笹」 に解説しているので、それを参考にしながら本稿では解説していきます。
①. 若竹のすばらしい生長と動的な美
同書では、上田らは「若竹の雄々しくもみずみずしい美しさ、力強い生命力は竹の 持つ美の極致 」と評しています。それは少し言い過ぎかもしれませんが、とにかく竹は毎年発生して私達に常にその青々とした一面を向けてくれます。また、タケノコが頭をもたげる様は、生命の萌芽の典型とも言えるでしょう。
また「動的な」という点に関しても、その柔らかい特性を活かして風に揺れる様はそれを体現しています。林冠から日の光が漏れる様子は、常に変化する影をまた生みます。どちらも「さわやかな趣」を与えてくれると上田らは評しています。
②. 形態の美
形態の美しさは、特に外国人がそれを感じることが多いそうです。彼らがしばしば訪れる施設(例えばホテルなど)では、大抵竹が植わっています。
その魅力の一つとして挙げられる、空間をフルに活用した集団としての美しさは竹にしか見られず、また雪などによってしだれる様も、これも竹にのみ見られます。さっぱりとした枝張りに魅力を感じる人もいると言われ、いずれにせよ竹独自の魅力が多く含まれます。
特異なものとしては、キッコウチクなどは独特の形態がエキゾチックな面も演出しています。
③. 色彩美
青々とした様が特に注目される竹ですが、実はそれ以外の色も呈します。例えばマダケ類ではタケノコの出始 める晩春の頃に黄色に紅葉し、これは「竹の秋」とも言われます。更に対応するように「竹の春」という考え方もあり、これは他の樹木が紅葉する時期である秋でも美しい緑を保っていることからそう言われています。
更に、竹稈(木の幹に相当する部分)にも色彩の美しさを見て取ることもできます。若い竹は青々とした緑色ですが、置いていくにつれて煤けていったり、またそもそも種類の違う竹では黄色や黒色を常に呈するものもあります。特に変わったものでは、縞状の色を常に呈するものもあり、見る人を飽きさせません。
また、見た目の美しさ以外にも竹を植栽する理由はあります。
④. 緑化と防災
緑化、と言っても美しさだけではありません。昨今の二酸化炭素排出問題の低減に貢献出来ることも注目すべきでしょう。また、 大気汚染や潮風などに強いという特徴も見逃せません。
ちょっとした庭園では難しいかもしれませんが、土中の地下茎ネットワークによって地震の際の避難場所にもなり得るとも言われています。この強みから山崩れを防ぐことも可能です。なお、その土地全体が滑る地すべりなどにはあまり強くないので、それを念頭に置くことは必要でしょう。
⑤. 地表の保護
特にササ類では、植栽によって雑草の繁茂を抑え、表土の侵食がくいとめられます。この特長により、ササは近年もグラウンドカバーとして高く評価されています。
⑥. その他
副次的な効果になりますが、タケノコは食用にもなるのでモウソウチクなどを植えることは目と口から楽しめ、通常の森林よりも、見方によっては一挙両得と言えるかもしれません。
また、森林浴と同様に竹林浴は注目されるところでもあると同書は指摘しています。以前中国では、竹園ではベンチが置かれ、多くの市民の憩いの場となっていたとも言われます。
【参考】
上田弘一郎・吉川勝好「竹庭と竹・笹」p.179-180