生態

京都を中心に見られるタケノコ栽培の技法「土入れ」とは何か

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筍の産地として有名なのは京都ですが、他の地方とは異なる技術がそこではいくつか用いられています。

その一つが「土入れ」あるいは「客土」(まれに「置土」)と呼ばれる技法です。

【目的】

一般的な植物栽培の「客土」は土壌の性質を改善する目的で他の土地から土を導入することを指します。水分保持のため粘土含量が高い土を入れたり、あるいは作物の育成を促進する役割で有機物や鉄分その他の養分が多い土を入れたりすることが多いでしょう。そのため、前者では山土などが、後者では湖底や沼、用水路の泥土などがよく用いられます。

一方、筍栽培における「土入れ」はそれとは大きく異なります。

まず、目的は大きく2つに大別されます。

一つは、発筍時期を早くすること。市場では、当然シーズン真っ盛りの3~4月には筍の価格が下落します。他のハウス栽培可能な農産物よりもこの傾向は顕著です。なぜなら、人為的に発筍時期をコントロールするのは事実上不可能なためです。おそらく8月に大量に筍がとれるようになる未来は来ないでしょう。

そうすると大量の筍が市場に一気に出回るため、当然値崩れに近い状態が起きます。誰しもその時期を外したいのですが、その工夫の一つが土入れなのです。

先行研究によって、既に発筍のタイミングは「累積地温」によって決まることが知られています。外的気温や地温ではなく累積地温であることがポイントです。そのため古い研究では電熱線でもって地温を高める実験をした例もあります。

その累積地温について、経験上土入れをしておくと上昇することが知られています。何週間かでも前倒しで筍を栽培できれば、その価格は大きく上昇します。土入れの手間暇に関するコストよりもその付加価値の方が高いために、一部の筍農家は土入れを実施するのです。

もう一つは、筍を柔らかくすること。前年度に人が入ったり、あるいは雨などで固められた地面を突き進む筍は当然固くなってしまいます。丁度生まれたばかりの赤ん坊の指先が、いろいろなものに触れるにつれて徐々に固くなるのと同じです。それを防ぐために客土を入れて土の状態を柔らかくしておく、ということです。なお、これにより「白子」の筍が発生する確率が上がるとも言われています。

また、副次的に筍を見つけ易くすることにも繋がります。というのも、前年から肥料を撒いたり除草したりするだけの作業では、竹林の表面にはいろいろなものが落ちていることになります。その結果、頭だけを出した状態の筍を見つけることは非常に困難です。そして筍は頭が出れば出るほど固くなる、という性質があります。要すれば、地表から遠ざかれば遠ざかるほど「竹」になりつつあるのです。そうした固い筍は商品価値が下がるため、できるだけ地上部が少ない状態で、出来れば地面に埋まっている状態で営農者は堀りたいと考えています。なお、農協などに出荷すると「グラムいくら」で質にそこまで拘らず処理されてしまうため、ここでの商品価値というのはD2C(Direct to Consumer。要すれば消費者と直接つながっている状態)など独自の流通網が持っていることが前提です。

そして土入れをした場合には、結果的に地上部が一面土のみということになり、筍を視認しやすくなる(特に、相当なめらかな土入れを行うと発筍による表面のわずかなひび割れが観察できる)ことは勿論、ベテランになるとそこを歩いただけで、足の裏の感触で筍の有無を察知することができるようになるのです。

上記のような目的で行われるため、通常の「客土」とはその意図が全く異なることがお分かりいただけたでしょうか。なお、地形によっては土が雨などで流れてしまうこともあるため、通常の作物の場合も、作土の厚さを増やすため客土が行われる場合もあります。

【具体的な作業方法】

簡単に言ってしまえば、土をどこからとってきてそれを(肥料などを撒いた上で)竹林の上に被せるだけです。なので、そこまで緻密な技術が求められるわけではありません。

しかし、そこにはとてつもない労力が要求されます。

まず分量ですが、おおよそ竹林全面に5~10センチの土を撒く必要があります。表面数センチだけでは前述の目標は達成できないので当然です。そして、その重さは1平米あたり約60キロになります(10センチの場合)。数ヘクタールに及ぶ竹林も珍しくはないと思いますので、その全てに土を入れるのは相当労力が必要でしょう。

具体的な実例を一つ。例えば京都の竹林の場合には、その土地内のある場所の土を重機(ユンボなど)で掘り返し、それを一輪手押し車(いわゆるリアカー)で遠方まで運搬することになります。竹林内は狭いので当然トラックを入れることができません。また悪路が続くので二輪では効率が悪く、一輪リアカーの人力で運搬するのが最も効率がよいのです。そしてその運んだ土をレーキで均します。このサイクルを延々、時には数週間にわたって続けるのです。作業分担としては、重機が正式な社員、一輪リアカーの運搬車がアルバイト(体力のある体育会系の大学生がしばしば使役されます)、レーキで均すのがこれまた社員(あるいは疲労しきった大学生の交代制)、というものが最も低コストかつ高精度でしょう。

また、土は当然自分の敷地内から持ってきます。量が大量になるので遠方からの運搬は隣の山から持ってくるわけにもいきません。広大な竹林の一部から重機で掘り出し、それを前述の通り運ぶことになります。その際に土の質が悪い場合は、礫や枝を除去する流儀もあります。

なお、客土の時期は10月から12月頃が妥当であると言われています。早すぎるとその上に雑草が繁茂しやすく、逆に遅すぎると地温が累積せず、また土壌が(筍と無関係に)ひび割れやすいため筍の発見が難しくなります。

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