ネマガリダケというササを聞いたことがあるでしょうか。あまり本州では見かけませんが、長野県や北海道では「タケノコと言えばネマガリダケのこと」と認識されています。
【呼び方】
ネマガリダケ(根曲竹)は呼び名が地方毎に千差万別なので、同じもののことを喋っていても会話がかみ合わないことが時々あります。主に北海道ではチシマザサ、長野県ではマガリタケ、新潟県ではヒメタケ(姫竹)、山形県では月山竹などと呼ばれます。他に、コウライザサ(高麗笹)、アサヒザサ、ジダケ(地竹)、ササダケ、ササマゴなどと呼ばれることもあるそうです。
なお、学名は「Sasa kurilensis」。属名の Sasa は日本名の「ササ」から、種小名の kurilense は「クリル諸島(千島列島)の」という意味。
【生態・分布】
そもそも、「竹」ではなく「笹」です。一般には成長した際も皮が残るものを「ササ」と区分しますが、ネマガリダケは笹にしては大型のため「タケ」と呼称されています。歴史的な呼称と生物学的な分類には往々にして差分があるものです。
その分布は、日本国内の寒冷な地域に分布します。前述の通り北海道が代表的な産地ですが、朝鮮半島や本州日本海側の北部、東北地方、千島列島南部、樺太、その他山地などに群生します。山の入り口にも、奥まったところにも点在します。
タケと言われるとおり、笹としては大型で高さはおよそ0.4メートルから3メートルほどの大きさに達します。また、枝は稈の上部でのみ枝分かれをします。開花に関しては竹類に近い性質をもち、花は穂状で約60年程度の周期をもち、群落全体が咲いた後(つまり、一斉開花)は、結実後枯死します。
なお、北海道ではクマイザサと呼ばれるチシマザサと形状が似た笹類があり、それと大きく住処を二分しています。そのため、住処が当然重なるところもあるので採集の際にはよく見ましょう。クマイザサのタケノコは食べることは一般的ではありません。
また、他の竹笹類と同じく、下位分類である亜種・変種は多く存在します。
【特徴】
主な収穫期は、5~6月です。笹に高さがあるため、毎年タケノコ刈りに出た人のうち一部は遭難者となって、紙面を騒がせます。モウソウチクの場合は竹藪がうっそうと茂っていても、そもそも分け入って入ることもできないほどに野山があれていたり、あるいは管理された竹林は見晴らしがよいため遭難することはほぼありません。しかし、ネマガリダケの場合は、稈が柔らかいのでその気になればどこまでも分け入ることができ、気が付けば後ろには道がなく、遭難ということは往々にしてあります。普通の竹林とは全く異なる様相ということを認識した方がよいでしょう。
また、ネマガリダケはクマの好物でもあるため、探索の際にはクマ避け鈴など十分な対策が必要です。更に、稈には弾力性があり目元などに飛び込んでくる場合もあるため、メガネやゴーグルも必須です。
【食べ方】
普通のタケノコと違うのは、アクが少ないためあく抜きが不要なことです。なお、スーパーでは山菜コーナーにあることが多いです。本州ではあまり見られませんが、北海道などのスーパーマーケットではぜんまいなどの山菜と同じような売り方をされており、珍しいものではありません。使い方は、モウソウチクのタケノコとそれほど相違ありませんが、モウソウチクのそれよりも少し柔らかいかもしれません。味噌汁や煮物が妥当でしょう。筍の太さは1~2cm程度で、身は白色。独特の風味があとも言われ好物とする人もいます。
なお、他のタケノコと同じく皮をむきすぎるとキリがないので、ほどほどにしないと可食部が全くなくなります。
また、モウソウチクが生えない地域では、稈を農作物の支柱や竹細工に利用することも多いです。しかし現在では、モウソウチクと同じく竹細工の文化は徐々に下火になってきています。
【参考文献】